(若干、ネタバレあります)
オードリー若林のキューバ旅エッセイ。読んでいると私小説っぽいなと思った。丁寧な描写がされているので頭に情景がありありと浮かぶ。一緒に旅をしている気分に浸れた。
全編を通じてphaさんに通じるものがなんとなくあるなと感じた。若林さん、phaさんは同じアラフォー世代。バブルが崩壊し日本の景気がどんどん悪くなるのを見ながら育った人たちなので、共通の社会への不信感を持っているのかもしれない。
東京での資本主義のレースに疲れ、社会主義国家のキューバを巡る。そこの景色には広告の類はない。クラッシクカーが走り回り、古い建物が並んでいる。しかし、それでも格差や不平等はある。ちょっとした人間同士の小競り合いも日常的に行われている。
最後に明かされる父への思いが良かった。僕はずっとオードリーのラジオを聴いていて、この本を読む前に若林さんの父が亡くなったのは知っていた。いつも馬鹿話をしているラジオで淡々と語ったときはかなり驚いた。
若林父の話はたびたびラジオの中で話されていた。酔うと乾き物のツマミを並べて野球の話をしたり、娘のバトンが頭に当たり怒ってそれを外へ放り投げたり、少年野球のコーチで仲間外れにされたり、ぎんぎんに朝立ちしたまま朝ごはんを食べたり、売れない芸人の息子を勘当したり、オヤドリーというバンドを結成したり、たくさんのエピソードがある。僕はそれを聴くたび笑っていた。いま思うと話自体に熱が篭っていたような気がする。
とあるブログで相方春日のキャラクターには若林父が投影されているんじゃないかと書いていて、なるほどと思った。実際、オードリーのコントに「アメリカン親父」というのがあって、春日がアメリカにかぶれた変な親父を演じていたりする。
この本には明確な答えや決意があるわけではない。世界のどこにも理想郷がなくても最愛の父親が死んでも、それでも日常は回っていく。だから、気楽にやっていくことが大切なのかもしれない。読み終えたあと、そんなことを感じた。